『奇跡のリンゴ』と治る力

先日、当院の最寄駅より一駅先の地下鉄 星ヶ丘駅前で、自然栽培によってできた野菜を路上販売しているのをみつけました。そこには、あの木村秋則さん公認の農家が作った野菜が並んでいました。

 

木村秋則さんといえば、これまで絶対不可能とされていた完全無農薬・無肥料のリンゴ栽培に初めて成功した人です。2013年には『奇跡のリンゴ』として阿部サダヲ、菅野美穂 主演で映画化もされました。現在は、リンゴ栽培のかたわら、農薬も肥料も一切使わない「自然栽培」の普及のため、国内外に農業指導を続けておられます。

 

木村さんの畑で育ったリンゴは、食用として人体に安心・安全なのはもちろんですが、リンゴの木自身の生命力の強さに驚きます。他の畑のリンゴとくらべて病気に強く、また台風によって他の畑のリンゴの大半が落果したときも、木村さんの畑のリンゴはほとんどが枝に残っていたそうです。そのリンゴの実は2年たっても干からびるだけで腐らないといいます。木村さんのリンゴは、希少でなかなか手に入らないようですが、一度食べてみたいものです。

 

木村さんがリンゴの自然栽培の成功のヒントになったのは、自然の山に生えていた一本のどんぐりの木でした。なぜ野生のどんぐりの木は、農薬も肥料もなく立派に育っているのか?調べていくとその理由は土壌にありました。山の土には、バクテリアなどの微生物が豊富に存在しています。それらの微生物は空気中の窒素を栄養分に変える働きがあります。だから山の土は、肥料など与えなくても、自分で養分を生産することができたのです。

 

しかし、農薬を使うと土のなかの微生物が死に、栄養分を生産できなくなります。すると、人間が肥料を与えないと作物は育たなくなります。わざわざ微生物を殺して、栄養分を補っているのですから、矛盾したことをやっているように思います。

 

その農薬を一番つかっている国はどこだと思いますか?

残留農薬が問題になった中国でしょうか?広大な面積に飛行機から農薬を散布するアメリカでしょうか?

意外でしたが、単位面積あたりの農薬の使用量が一番多い国は日本だそうです。これまでの農業であまりに農薬、肥料を散布し続けたため、土が疲れ作物が一切育たなくなっている畑が増えてきているそうです。まさに畑の砂漠化です。現代農法の行く末をみているようだと木村さんは警鐘を鳴らします。

 

前置きが長くなりましたが、同じようなことは、医療の分野でも起こっています。先ほど、単位面積あたりの農薬の使用量が一番多い国は日本と書きましたが、世界で一番「薬」を使用している国も日本です。日本人は、世界人口の約2%しかいないのに、世界全体の薬の使用量の40%を使っています。そんなに薬を使わないと健康を保てないのでしょうか?

 

現役の医師で作家の久坂部羊さんは、著書のなかでこう言っています。

“実際に有効な薬、必要な薬もあるが、多かれ少なかれ副作用はある。長い目で見て、必要性の低い薬には大きな副作用がある。自然な治癒力を弱めてしまうということだ。身体は病気を治すために、さまざまな防衛機能と治癒機能を働かせている。薬がそれを肩代わりしてくれると、身体は機能を弱めてしまう。薬が助けてくれるから、頑張る必要がないというわけだ。”

『医療幻想』(久坂部 羊 著 筑摩書房 2013年)

 

この「自然な治癒力を弱めてしまう」ことが一番の問題だと思います。ほとんどの薬は対処療法(症状を抑えるだけで病気そのものを治しているわけではない)で、実際に治っていくのは身体に自然治癒力があるからです。私たちは、痛みや発熱など表面的な症状にのみとらわれ、症状が消えたら治ったと思ってしまいますが、もっと本質的な身体の「治る力」に目を向けることも大切だと思います。

木村さんの「自然栽培」とは、化学肥料や農薬、除草剤などを一切使わず、作物を自然のあるべき姿に近づけて、作物が本来持っている「生きる力」を最大限引き出してあげる栽培方法のことです。

そして鍼灸治療は、薬やサプリメントを使わずに、身体に備わっている「治る力」、つまり自然治癒力を最大限に引き出すことです。

植物が強くなれるのですから、人間だって強くなれるはずです。

現代医学がやらないこと、やれないことが鍼灸にはあると思います。

 

参考図書『見えないものを見る力』木村秋則 著 扶桑社 2013年

身体の自然治癒力を高めるのに

もっとも重要な腎のツボ

腎のツボは身体の一番深いところにあるので、3寸の長鍼(約11㎝)を使います。腰の悪い人は奥に固い塊があります。この塊に鍼を通すと緩んでいくのがわかります。さらに腰の動きを良くする鍼を加え、お灸でじっくり温めます。

写真は患者のKさん。このお灸の時間は心地好くて毎回眠ってしまいます。趣味はベリーダンスととても活動的な患者さんです。いつまでも元気で趣味に打ち込めるようサポートさせていただきます。